越境ECを「まず試す」ための選択肢 — 天猫国際 探物(全球探物)の仕組みと使いどころ

越境ECをまず試す 天猫国際 探物 全球探物の仕組みと使いどころ

中国向けの越境ECというと、まず思い浮かぶのは天猫国際(Tmall Global)に旗艦店(フラッグシップストア)を構えるかたちでしょう。ただ、店舗を開いて自社で運営し、在庫を抱え、広告を打つというのは、はじめの一歩としては負担が小さくありません。「中国に需要があるのかをまず確かめたい」という段階のブランドに向けて、天猫国際には「全球探物(中国語:全球探物 quánqiú tànwù/チュエンチウ・タンウー、略して『探物』)」という、より軽く始められるチャネルがあります。本記事では、公開されている情報をもとに、探物とは何か、旗艦店とどう違うのか、どんなブランドに向くのかを整理します。

全球探物(探物)とは — 天猫国際の「海外直購」を刷新したチャネル

全球探物は、天猫国際が2022年10月に、それまでの「海外直購(中国語:海外直购 hǎiwài zhígòu)」という仕組みを刷新・強化し、あらためてブランド名を付けて打ち出したチャネルです(出典:亿恩网・中国日報網ほか、2022年10月の天猫国際発表報道)。日本・韓国・欧州などに置かれた採購(仕入れ)チームが海外ブランドの商品を直接買い付け、海外倉庫から専用便で中国の消費者に届ける、という建て付けになっています。

天猫国際の中での位置づけを大まかに言うと、ブランドが自分で店を構えて運営する旗艦店と、天猫が完全に主導する自営(天猫直営)との「中間」にあたるモデルです。中国の業界メディアでは、まだ中国で実績のない新しい商品・ニッチな商品を試す「孵化(ふか)の場」として紹介されています。ブランド側が店舗運営の細部まで抱え込まなくても、モール側の仕組みに乗せるかたちで中国の売り場に商品を出せる、という点が特徴です。

旗艦店との違い — 「出店」ではなく「モールに置いてもらう」

天猫国際には、海外ブランドが中国に商品を持ち込むための入り方(モデル)が複数あります。この区分は2022年9月の招商(出店募集)新政で整理され、2025年時点の入駐ガイドでも同じ枠組みが踏襲されています。おおまかには次の4つに分かれ、探物は「海外直購(=全球探物)」にあたります。

モデル運営の主体特徴
旗艦店(平台)ブランドが自社で出店・運営ブランドの世界観づくり・会員(ファン)の蓄積の主戦場。そのぶん運営・在庫の負担は自社
自営天猫が買い取って運営天猫が仕入れ・価格・体験を主導。売れ筋を育てるのに向く
跨境品牌站(フルマネージド型)天猫の公式代行が一括運営店舗運営を丸ごと任せられる一站式托管型。低コストで試したい中小ブランド向け
海外直購=全球探物モール側が買い付けて販売店舗を持たず、在庫リスクも基本的に負わない。もっとも軽く試せる

旗艦店との最大の違いは、ブランドが「店を開いて自分で運営するかどうか」です。旗艦店は自社の城を構えてファンを育てていく場であるのに対し、探物は店を持たず、モール側の売り場に商品を置いてもらうイメージに近いものです。そのぶん、運営や在庫の負担は軽くなります。一方で、店舗としてのブランドページや会員資産を自社に積み上げていく性格は弱くなります。どちらが良い・悪いではなく、段階と目的が違うと捉えるのが実態に近いでしょう。

仕組みと物流 — 注文を受けてから買い付けて届ける

探物の基本的な流れは、消費者が注文してから商品を買い付け、海外倉庫を経由して中国へ届けるというものです。発表時の報道では、海外倉庫から専用便でおおむね数日〜1週間程度で届ける体制が紹介されていました(出典:CBNDataほか)。注文を受けてから動くため、事前に大量の在庫を中国側へ持ち込んでおく必要がない、という点が「軽さ」につながっています。

参考までに、天猫国際の越境物流には一般的に次のような方式があります。商品が売れ筋になってきた段階で、より速い配送に切り替えていく、という考え方です。

物流方式仕組み向いている商品
海外直郵(hǎiwài zhíyóu/海外直送)注文を受けてから海外の倉庫より直接発送し、輸送中に通関するまだ売れ行きの読めないテスト初期・低回転の商品。運用は軽いが配送は長め
集貨(jíhuò)商品を海外倉庫へ集約しておき、注文後にピッキング・中国搬送・通関・配送するある程度動き始めた、SKU(品目)が分散する中量期の商品
保税备貨(bǎoshuì bèihuò)まとめて中国の保税区へ免税搬入し、注文後すぐ保税倉から出荷する売れ筋が固まった量産・拡大期の商品。配送が速い(1〜3日程度)。在庫リスク・資金負担は大きい

探物は、この中でいちばん軽い海外直郵(海外直送)が起点になります。まず注文が入ってから海外倉庫を経由して届け、在庫を中国側に持ち込まずに反応を見る。そのうえで売れ行きが読めてきたら、集貨、さらに保税备貨へと段階的に切り替え、配送スピードを上げていく——という流れが、越境物流の基本的な考え方です。※ここで挙げた3方式は天猫国際全体の物流方式として公開されている整理で、探物の実際の組み方は商品やカテゴリによって変わります。物流全般は中国向け越境EC 物流ガイドもあわせてご覧ください。

なお越境ECの税金面では、1回あたり2,000元・年間2万元の範囲内であれば関税は0%となり、増値税・消費税を合わせた「越境総合税」がかかります(2016年の越境EC小売輸入新政ベース。上限や税率は都度改定あり)。総合税率は、消費税のかからない普通の化粧品・スキンケア・個人ケア用品ではおおむね9.1%(=増値税13%×70%)、単価が高く消費税の対象となる高級化粧品(1ml・1gあたり10元以上などが目安)では約23.1%と、品目や単価によって差があります。価格設計の前提として押さえておくべきところです。

どんな商品・ブランドに向くか

発表時の報道で探物の対象として挙げられていたのは、ウイスキーやニッチな香水、デジタル製品、アパレル・バッグ、宝飾、ホーム、ラグジュアリー、海外アウトレット品など、まだ中国で広く知られていない「新しい・ニッチな」商品が中心でした。美容・健康系のブランドの事例も紹介されています。「いきなり大量には売れないかもしれないが、刺さる層には刺さる」という商材を試すのに向いた性格だと言えます。

ただし、化粧品・健康食品(保健食品)・乳児用ミルク・ペットフードといったカテゴリは、チャネルにかかわらず規制の対象です。天猫国際は禁止・制限成分の規範を設けており、商品によっては資質証明や第三者の検査報告書の提出が求められます。化粧品では抜き取り検査や取り扱い停止の措置も実施されています。また、越境ECでは効能・効果の訴求表現にも注意が必要で、とくに保健食品は、中国国内で登録・届出を経ていない越境EC商品の場合、「保健機能」そのものを表示・宣伝できないという整理が示されています(2025年・地方当局の回答)。「越境ECだから機能を自由に謳える」わけではない点は、企画段階で押さえておく必要があります。このあたりは、参入のしやすさとは別に、必ず事前に確認しておくべき点です。中国向けの規制全般は中国EC 法規制・コンプライアンス、食品まわりの最新の動きは天猫国際の越境EC食品規制で整理しています。

この「透明性」の要求は、2026年に入ってさらに一段強まっています。天猫国際は2026年5月末に「全球探源計画」(=トレーサビリティの見える化)を始め、618商戦では美容・母嬰・保健品を中心に世界32の国・地域から150社超が参加しました。参加ブランドは原産地証明・現地での上市(販売許可)証明・海外での実流通の証明という3種の書類提出が求められ、商品ページの「全球探源認証」ラベルから消費者が確認できる仕組みです(出典:揚子晩報ほか、2026年6月)。効能を謳えるかどうか以前に、「本当に正規に流通している海外商品か」を証明できることが、今の中国越境ECでは前提になりつつあります。

あわせて、越境ECでは「どこの・誰の商品か」という出所の透明性も問われます。海外ブランドを名乗ることの実態については「海外ブランド」「原装進口」はどこまで本当かもご参照ください。

「まず試す」入口としての探物 — 小さく始めたいブランドの選択肢

探物のいちばんの使いどころは、本格的に出店する前に、中国市場での手応えを軽く確かめる「入口」として使えることです。探物(海外直購)が始まった2022年のローンチ時点では、それまでに300を超える海外ブランドが、まず海外直購のかたちで中国市場を試し、その後に天猫国際の旗艦店を開設した、と紹介されていました(出典:亿恩网・搜狐、2022年)。

この「まず入口から入る」流れは、その後も規模を保っています。天猫国際の発表によると、2025年の1年間だけで、世界52の国・地域から2,415もの海外新ブランドが天猫国際に「中国での初出店(中国首店)」を果たしました(1日あたり6社超・2026年1月・新浪財経)。累計では110を超える国・地域から4万超のブランドが運営しており、新規参入の密度が高いのは「健康・美容個護・母嬰」——まさに日本の化粧品・健康食品メーカーの主戦場と重なる領域です。体力のあるブランドが最初から旗艦店を構える道ももちろんありますが、いきなりフルの出店を背負わず、まず軽い入口から様子を見るという入り方も、これだけ多くのブランドに選ばれ続けている——探物は、その「軽い入口」の一つとして使えます。

つまり、「探物で試す → 反応を見る → 手応えがあれば旗艦店へ」という段階的な進め方も選べる、ということです。とくに、いきなり店舗構築・運営・広告をフルセットで抱えるのが重い中小ブランドや、まず中国の消費者の反応というデータを得てから投資判断をしたいブランドにとっては、リスクを抑えた現実的な一歩目になり得ます。逆に、ブランド力・体力があり最初から本格的に売り場をつくりたい企業なら、旗艦店から入る選択も当然あります。どちらが正解ということではなく、自社の段階に合う入り方を選べる、という話です。

もちろん、探物が万能というわけではありません。店舗としてのブランド体験や会員づくりを積み上げたいのであれば旗艦店のほうが向きますし、規制カテゴリでは前述の確認が前提になります。「自社の商材と段階に、どのモデルが合うのか」を見極めることが出発点です。

まとめ — 自社で試すか、専門家と組むか

全球探物(探物)は、天猫国際の「海外直購」を刷新したチャネルで、店舗を持たずにモール側の売り場へ商品を置いてもらう、軽く始められる入り方です。注文を受けてから買い付けて届ける仕組みのため在庫リスクを抑えやすく、「まず中国の反応を見たい」という段階のブランドの入口に向いています。一方で、化粧品・健康食品などの規制確認は欠かせず、店舗としての資産づくりには旗艦店のほうが向くなど、目的によって使い分けが必要です。

どのモデルが自社に合うのか、探物から始めるべきか旗艦店を目指すべきか——判断には、商材のカテゴリや規制、中国側の最新の条件をふまえた整理が要ります。当社は天猫国際の認定パートナー(TP)として、こうした入口の設計から運営までをご支援しています。「まず話だけでも」という段階で構いません。下記よりお気軽にご相談ください。

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