中国越境ECの規制を完全ガイド!法律・EC法・リスク対策
中国越境ECの規制を完全ガイド!法律・EC法・リスク対策

目次
巨大な中国市場への進出は、多くの日本企業にとって大きなチャンスです。その有効な手段として「越境EC」が注目されていますが、成功のためには中国独自の法律や規制を正しく理解することが不可欠です。
「何から調べればいいかわからない」「知らないうちに法律違反をしてしまったらどうしよう」といった不安を抱えていませんか?
この記事では、中国向け越境ECを始める前に必ず知っておくべき主要な法律、特にビジネスに大きな影響を与える「中国EC法」の内容、そして規制違反のリスクまで、初心者の方にも分かりやすく解説します。
この記事を読めば、複雑な中国のEC規制の全体像を把握し、安心して事業をスタートさせるための第一歩を踏み出せるはずです。
中国越境ECで遵守すべき4つの主要法律
中国で越境EC事業を行う上で、最低限おさえておくべき法律が4つあります。これらはEC取引の根幹をなすルールであり、知らないでは済まされません。それぞれの法律が何を定めているのか、概要を把握しましょう。
中国電子商務法(EC法)
2019年1月1日に施行された、EC取引全般のルールを定めた基本法です。プラットフォーム運営者だけでなく、出店者や個人バイヤー(代購)も対象に含まれます。事業者の登録義務、納税義務、消費者保護の責任などが明確に定められており、中国の越境ECビジネスに最も大きな影響を与える法律です。
製品品質法
製品の品質と安全性に関する基準を定めた法律です。事業者は、販売する製品が中国の国家基準や業界基準を満たしていることを保証する責任があります。基準を満たさない欠陥製品を販売した場合、販売停止や罰金、損害賠償などの厳しい罰則が科せられます。
広告法
虚偽・誇大広告を禁止し、広告表現を厳しく規制する法律です。特に化粧品や健康食品の分野では、「最高の」「No.1」といった絶対的な表現や、効果効能を保証するような表現は固く禁じられています。違反すると高額な罰金が科されるため、プロモーションを行う際は細心の注意が必要です。
消費者権益保護法
消費者の権利を守るための法律で、日本の消費者契約法に近いものです。事業者に対して、7日間の無条件返品制度(クーリングオフ)の適用や、製品・サービスに関する正確な情報提供などを義務付けています。この法律を遵守することは、顧客との信頼関係を築く上で非常に重要です。
最重要法律「中国EC法」が事業に与える影響
数ある法律の中でも、日本の事業者にとって特に重要なのが「中国電子商務法(EC法)」です。この法律の施行により、これまでグレーゾーンとされてきた部分が明確化され、事業者の責任が大幅に強化されました。ここでは、特に影響の大きい3つのポイントを解説します。
対象事業者と営業許可登録の義務
EC法では、ECプラットフォーム運営者、プラットフォームに出店する事業者、さらにはSNSなどを通じて商品を販売する個人(代購など)も「EC事業者」と定義されました。
これにより、多くの事業者が法律の適用対象となり、原則として市場監督管理部門への登録(営業許可の取得)が義務付けられました。日本企業が直接登録することは難しい場合が多いため、多くは現地のパートナー企業やプラットフォームを通じて対応することになります。
(参考:日本貿易振興機構(JETRO)「電子商務法成立、プラットフォーム経営者の義務と責任を規定」https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/09/725713685b0f814c.html
納税義務の明確化
EC法は、EC事業者に法に基づいた納税義務があることを明確に規定しました。これまで個人輸入の形で納税が曖昧になりがちだった取引についても、厳格な管理が求められるようになりました。プラットフォーム事業者は、出店者の身元情報や納税関連情報を当局に報告する義務を負っており、透明性の高い取引が必須となっています。
消費者保護の強化と事業者の責任
EC法は消費者保護を大きく強化しました。事業者は以下の責任を負うことになります。
- 情報提供の義務: 商品やサービスに関する情報を、全面的、真実、正確、かつタイムリーに開示する。
- 知的財産権の保護: 偽物やコピー商品を販売してはならず、他社の商標権や特許権を侵害しないよう注意する。
- 個人情報保護: 収集したユーザーの個人情報を適切に管理し、漏洩や不正利用を防ぐ。
- 抱き合わせ販売の禁止: 消費者の意に反して、別の商品をセットで販売することを禁止する。
これらの責任を果たせない場合、罰則の対象となるだけでなく、消費者からの信頼を失うことにつながります。
直送モデルと保税区モデルの規制の違い
中国向け越境ECには、主に「直送モデル」と「保税区モデル」という2つの物流方式があります。どちらを選ぶかによって、通関手続きや税金の扱いが異なるため、自社のビジネスに合った方式を選択することが重要です。
直送モデル(BC)の通関と税制
直送モデル(Business to Consumer)とは、日本の倉庫などから注文の都度、国際郵便や国際宅配便(EMSなど)を使って中国の個人消費者へ直接商品を発送する方式です。初期投資を抑えられ、小規模から始めやすいのがメリットです。
この直送モデルには、税関への申告方法によって主に2つのルートがあり、どちらを選ぶかで適用される税金や手続きが大きく異なります。
個人物品ルート(行郵税の適用)
こちらは従来の個人輸入に近い方法で、荷物を「個人物品」として申告します。この場合、「行郵税」という簡易的な税金が適用され、税額が50元以下なら免税になります。
しかし、通関が不安定で時間がかかったり、購入者が後から税金の支払いを求められる「関税サプライズ」が発生したりするリスクがあります。そのため、コンプライアンスや顧客体験を重視する現在の正規のBtoCビジネスでは、次に説明する「越境EC小売輸入ルート」が主流となっています。
越境EC小売輸入ルート(越境EC総合税の適用)
現在の正規越境ECビジネスの基本となるのが、こちらのルートです。このルートを利用するためには、中国税関への事前のデータ連携、通称「三単合一」の要件を満たす必要があります。
- 三単合一とは?
これは、①注文情報、②決済情報、③物流情報の3つのデータを、荷物が中国の税関に到着する前に電子データで連携させ、税関システムで照合させる仕組みです。 - 注文情報(オーダー情報): 誰が、何を、いくつ、いくらで買ったかという情報。
- 決済情報(ペイメント情報): 誰が、どのように支払いを完了したかという情報。
- 物流情報(ロジスティクス情報): 荷物の追跡番号や内容物などの配送情報。
この「三単合一」の要件を満たすことで、荷物は「越境EC小売輸入品」として正式に扱われ、以下の「越境EC総合税」が適用されます。これにより、通関がスムーズになり、購入者も事前に税込み価格を把握できるため、安心して買い物ができるようになります。
- 適用される税制(越境EC総合税)
この正規ルートでは、関税、増値税、消費税を一本化した「越境EC総合税」が適用されます。1回の取引限度額は5,000元、年間の個人累計限度額は26,000元と定められており、この範囲内であれば関税が0%に免除され、増値税と消費税が本来の税額の70%に減免されます。
(参考:日本貿易振興機構(JETRO)「中国における越境ECの概要と留意点」https://www.jetro.go.jp/world/qa/J-210602.html)
保税区モデル(BBC)の通関と税制
保税区モデル(Business to Business to Consumer)とは、一度に大量の商品をコンテナなどで中国国内の「保税区」と呼ばれる特殊なエリアにある倉庫に輸送・保管し、注文が入ったらそこから中国国内の消費者へ配送する方式です。
- 特徴: 中国国内から発送するため、顧客へのリードタイムを大幅に短縮でき、配送料も抑えられます。一方、在庫管理や倉庫費用などの固定費が発生します。
- 通関: 商品は「貨物」として保税区に搬入されます。この時点では関税はかかりません。
- 税制: 保税区から消費者へ商品が発送される際に、直送モデルの越境EC小売輸入ルートと同様の「越境EC総合税」が適用されます。取引限度額(1回5,000元、年間26,000元)や税率のルールも同じです。
規制違反で起こる3大リスクとトラブル
中国の法律や規制を軽視すると、事業の存続に関わる深刻なリスクやトラブルに発展する可能性があります。ここでは、代表的な3つのリスクを紹介します。
高額な罰金と営業停止命令
規制違反に対する罰則は非常に厳しく、特にEC法違反の場合、内容によっては最大200万元(約4,000万円)という高額な罰金が科される可能性があります。また、悪質な違反と判断された場合は、営業許可が取り消され、事業の継続が不可能になることもあります。
商品の没収と廃棄処分
輸入が禁止・制限されている成分を含む商品や、必要な許認可(後述するNMPA登録やCCC認証など)を取得していない商品を発送した場合、税関で差し止められ、没収・廃棄処分となるリスクがあります。多額の損失が発生するだけでなく、配送遅延による顧客からのクレームにもつながります。
ブランドイメージの低下と信用の失墜
規制違反が当局によって公表されたり、SNSで拡散されたりすると、「安全でない商品を売る違法な企業」というネガティブなレッテルが貼られてしまいます。一度失ったブランドイメージや信用を回復するのは非常に困難であり、長期的な売上不振という最悪の事態を招きかねません。
商品カテゴリー別の規制と注意点
取り扱う商品のカテゴリーによって、遵守すべき個別の規制や必要な手続きが存在します。ここでは、特に注意が必要な3つのカテゴリーについて解説します。
化粧品のNMPA登録とラベル表示義務
中国で化粧品を一般貿易で販売するには、原則として国家薬品監督管理局(NMPA)への登録・届出が必要です。
越境EC(直送モデル、保税区モデル)で販売する場合、このNMPA登録が免除されるという大きなメリットがありますが、これはあくまで「個人使用目的」の輸入に限られます。また、商品には中国の法律で定められた中国語の成分表示ラベル(中文ラベル)を貼り付けることが推奨されており、プラットフォームによっては義務化されている場合もあります。
健康食品の成分規制とポジティブリスト
健康食品は、中国で使用が認められている原料を定めた「ポジティブリスト」に基づいて製造されている必要があります。リストにない成分を含む商品は、原則として中国国内で販売できません。
また、特定の健康効果(例:免疫力向上)をうたう「保健食品」として販売するには、NMPAから「藍帽子(ブルーハット)」と呼ばれる認証マークを取得する必要があり、これは非常にハードルが高い手続きです。
ベビー用品のCCC認証制度
おもちゃ、ベビーカー、チャイルドシートなど、一部のベビー・子供向け製品には、中国の安全基準を満たしていることを証明する「中国強制製品認証制度(CCC認証)」の取得が義務付けられています。この認証がない製品は、中国への輸出および販売が一切できません。対象品目かどうかを事前に必ず確認する必要があります。
(参考:製品安全協会「中国強制認証(CCC)制度」https://www.sg-mark.org/sg-news/china-ccc/)
越境EC事業開始前のコンプライアンスチェックリスト
ここまで解説してきた内容を踏まえ、事業を開始する前に必ず確認すべき項目をチェックリストにまとめました。自社の状況と照らし合わせながら、一つずつ確認していきましょう。
- 事業モデルの決定: 直送モデルと保税区モデル、どちらが自社に適していますか?
- 通関ルートの選定: 直送モデルの場合、コンプライアンスを遵守できる「越境EC小売輸入ルート」の体制を整えられますか?
- 輸入禁止・制限品目の確認: 自社商品が中国の輸入禁止・制限品目に該当していないか確認しましたか?
- 許認可の確認: 商品カテゴリーに必要な許認可(NMPA, CCC認証など)や成分規制を把握していますか?
- EC法上の義務の理解: 事業者登録、納税、消費者保護といったEC法の定める義務を理解しましたか?
- 広告表現の確認: 商品のキャッチコピーや説明文が、中国の広告法に違反していないかチェックしましたか?
- パートナーの選定: 信頼できる物流パートナー、決済代行会社、現地の法律に詳しい専門家は見つかっていますか?
まとめ
本記事では、中国向け越境ECを成功させるために不可欠な、法律・規制の知識について解説しました。
中国越境EC成功の鍵は、正確な情報を収集し、定められた法律や規制を徹底して遵守することに尽きます。特に「中国EC法」はすべての事業者に影響する重要な法律であり、その内容を深く理解することが不可欠です。
中国の規制は複雑な上に、頻繁に改正されます。常に最新の情報をキャッチアップする姿勢を忘れないでください。自社だけで対応するのが難しい場合は、JETRO(日本貿易振興機構)のような公的機関や、中国ビジネスに精通した専門コンサルタントといった外部の力を借りることも、リスクを回避し事業を成功に導くための賢明な選択肢です。
この記事が、あなたの中国越境ECへの挑戦を後押しできれば幸いです。
お問い合わせはこちら:https://www.fcafe.com/contact