天猫国際の出店の流れと必要書類 — 店舗タイプ・商標授権・業種別資質の実務【2026年版】
目次
天猫国際(Tmall Global)に出店するには、まず中国大陸以外に実体のある法人と、海外で登録された商標が必要です。そのうえで店舗タイプ(品牌旗艦店・卖场型旗艦店・専売店・専営店・銀河専営店)を選び、開店企業資質(会社の登記書類・授権代表人の声明書と身分証明)、ブランド資質(商標登録証と、商標権者からの授権)、業種別の追加資質という3層の書類を出す流れになります。食品・母婴・健康食品では2026年5月27日から、中国国内法人の営業許可や食品経営許可、越境EC小売輸入食品の委託経営協議までが出店時の提出書類として明記されました。この記事では、天猫国際が公開している規則の原文にもとづいて、出店申請の流れと必要書類を整理します。金額面は天猫国際の出店費用の記事にまとめてあるため、ここでは手続きと資質に絞ります。
出店の全体像 — 申請までに決めることは4つ
天猫国際の出店準備は、書類を集める作業から始めがちですが、実際には「何を出すか」が決まる前に、決めておかなければならないことが4つあります。順序を逆にすると、集めた書類が使えなくなることがあります。
1つめは申請する法人をどれにするかです。天猫国際の《天猫国际招商标准》は、出店主体を「中国大陸以外の資質を持つ会社実体」と定めています。日本の本社で出すのか、香港子会社で出すのかによって、後から必要になる登記書類も授権書の宛先も変わります。
2つめは店舗タイプです。自社ブランド1本で出すのか、複数ブランドを扱うのかで、必要な授権の「級数」が変わります。3つめは販売する類目(カテゴリ)です。食品や健康食品、医療機器などは、共通書類に加えて業種固有の資質が求められます。4つめは誰が運営するかです。運営を代行会社に委ねる場合、その事業者の情報も天猫国際に届け出る対象になります。
この4つが決まってはじめて、提出書類の一覧が確定します。以下、順に見ていきます。
大前提:出店できるのは「中国大陸以外の法人」だけ
《天猫国际招商标准》(2025年2月21日公示・同年3月1日施行)は、出店の前提をかなり明確に書いています。原文では、出店する事業者は「中国大陸以外の資質を持つ会社実体を備え、海外の登録商標を持ち、海外での小売・研究開発生産の経営能力など業務に関連する資質と許可を備え、かつ国外で良好な信用と経営状況を有する」ことが求められる、とされています(出典:天猫国際《天猫国际招商标准》ruleId 11003210)。
整理すると、前提は次の4点です。
| 前提 | 規則上の要求 |
|---|---|
| 法人の所在 | 中国大陸以外の実体会社であること。規則の別項では「海外または香港・マカオ・台湾の実体会社」と明記されている |
| 商標 | 海外で登録された商標を持っていること |
| 事業実体 | 海外での小売、または研究開発・生産の経営能力と、それに関連する資質・許可を持つこと |
| 信用 | 国外で良好な信用と経営状況にあること |
ここで注意したいのが、同じ規則に「天猫国際は現時点でいかなる機関にも代理招商サービスを授権していない。出店申請の流れおよび関連する費用の説明は、公式の招商ページを基準とする」と書かれている点です。出店支援をうたう事業者は数多くありますが、「代理店だから出店枠を確保できる」「特別ルートがある」という説明は、規則の記述とは整合しません。支援会社に依頼する価値は、書類の整合性を作り込む実務や、出店後の運営設計にあります。この観点は運営代行パートナーの選び方の記事で詳しく整理しています。
また招商の方式は3つに分かれています。天猫国際側から声をかける「邀約制招商」、事業者が自ら申請する「品牌自主入駐」、そして「熱招品牌池」です。規則には「海外および港澳台の著名な実体量販店・B2Cサイトと、まだ中国市場に参入していない海外の著名ブランドを優先的に招募する」とあります。
店舗タイプを選ぶ — 5種類と、選択が書類に与える影響
天猫国際の店舗は5種類あります。《天猫国际商家资质标准》(2026年5月21日公示・同年5月27日施行)の定義を整理すると次のようになります。
| 店舗タイプ | 定義(規則の要旨) |
|---|---|
| 品牌旗艦店 | 自社ブランド、または商標権者から直接独占授権を受けたブランドが開く店舗。原則としてそのブランドの商品のみを販売し、商品は店舗ブランドの商標権者から直接調達する。グループブランドの場合はグループ内の複数ブランドを扱える |
| 卖场型旗艦店 | オフラインのチェーンスーパー・量販店、またはオンラインB2Cサイトのブランド商標権者自身が主体となって開く店舗 |
| 専売店 | 商標権者から出店の授権を受けて開く店舗 |
| 専営店 | 同一の経営大類で2つ以上のブランドを扱う店舗 |
| 銀河専営店 | 天猫国際の直営、または品牌旗艦店の商品を代理販売する専営店。経営大類の制限がない |
日本のメーカーが自社ブランドで出す場合、実務上の選択肢は品牌旗艦店か専売店になります。両者の違いは、商標権者本人(またはその独占授権先)が出すか、授権を受けた第三者が出すかという点です。複数ブランドをまとめて扱いたい場合は専営店になりますが、後述するとおり専営店は求められる授権の水準が上がります。
なお卖场型旗艦店の申請方式については、《天猫国际招商标准》が「この類型の店舗は邀約入駐のみ対応する」としている一方、《天猫国际商家资质标准》は「各店舗タイプとも邀約入駐と商家自主入駐に対応する」と記載しており、2つの規則で記述が食い違っています。卖场型を検討する場合は、申請前に最新の規則本文と担当者の案内で確認してください。
全店舗タイプ共通の書類と、ブランド資質(商標と授権)
提出書類は「開店企業資質」と「ブランド資質」に分かれます。まず開店企業資質は、どの店舗タイプでも共通して次の3点です。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 会社の登記登録書類 | 出店主体となる会社の登記書類。日本法人であれば登記事項証明書に相当するもの |
| 授権代表人の声明書 | 出店主体の会社が、誰を代表者として立てるかを示す声明書 |
| 授権代表人の身分証明書 | その代表者本人の身分証明書類 |
卖场型旗艦店のみ、これに35類の商標登録証と卖场特殊資質の2点が加わります。35類は広告・小売サービスの区分で、量販店やB2Cサイトという業態そのものを商標として押さえていることを求める趣旨です。
次にブランド資質です。ここが日本のメーカーで最も詰まりやすい部分です。
販売するブランドについて、商標登録証の原本スキャンを提出します。ここでいう商標は、招商標準が前提とする海外(日本など中国大陸以外)で登録された商標で、日本の商標登録証で問題ありません。
出店主体が商標権者本人でない場合は、授権書が必要になります。求められる水準は店舗タイプで異なります。
| 店舗タイプ | 商標権者でない場合に必要なもの |
|---|---|
| 品牌旗艦店 | 商標権者が出す独占授権書 |
| 専売店 | 商標権者が出す授権書 |
| 卖场型旗艦店 | 商標権者を起点とする四級以内の完全な授権、または仕入証憑 |
| 専営店 | 業種ごとに定められた級数を満たす、商標権者を起点とする完全な授権、または仕入証憑 |
「級数」は規則が明確に定義しています。商標権者をA、出店会社をCとしたとき、AがCに直接授権すれば1級、A→B→Cと間に1社挟めば2級、以降同様に3級・4級と数えます。商社や販売代理店を経由して中国側に商品を流している場合、この鎖が何段になっているかを先に数えておくと、必要な書類が見えます。途中の1社でも授権書が取れなければ鎖が切れるため、書類集めは末端からではなく商標権者側から遡って着手するのが安全です。
業種別の追加資質 — 食品・健康食品は2026年5月に要件が前倒しされた
共通書類とブランド資質に加えて、類目ごとの追加資質があります。当社が主に相談を受ける業種について、規則の記載を整理します。
まず食品・母婴・健康食品です。2026年5月21日に公示され、5月27日から施行された《天猫国际商家资质标准》の改定で、これらの類目には次の4点が明記されました。
| 対象 | 追加で必要な書類 |
|---|---|
| 食品大類の全類目 (茶/酒類/コーヒー・シリアル・飲料/米麺油・乾物・調味料/菓子・ナッツ・特産/水産肉類・青果・惣菜) | ①中国国内法人の営業執照 ②中国国内法人の食品経営許可証 ③中国国内法人の法定代表者の身分証明書 ④越境EC小売輸入食品の委託経営協議 |
| 母婴 (婴童奶粉/婴童食品/孕産婦向けの奶粉・営養品・月子営養) | |
| 保健食品・膳食営養補充食品・伝統滋補営養品 |
この改定の趣旨は、公示通知そのものに書かれています。「食品安全管理をさらに強化し、消費者の合法的権益を確実に保障するため、越境EC小売輸入食品のリコール義務を厳格に実施することに関して、《天猫国际商家资质标准》の招商管理資質の要求を更新する」というものです(出典:天猫国際《关于〈天猫国际商家资质标准〉公示通知》ruleId 20010174)。
ここは押さえておく価値があります。越境EC小売輸入食品について中国国内に受託企業を置く義務は、2026年の食品リコール規制で導入されたものですが、それが運営中の義務にとどまらず、出店審査の入口で問われる提出書類になったということです。中国側のパートナー選定を「出店してから考える」進め方は、食品・健康食品では成立しなくなりました。
健康食品のなかでも、NAD+前駆体の栄養補助食品はさらに要件が重くなります。規則は、製造工場の生産許可資質(米国cGMP、日本GMP、豪州TGA、カナダGMPなど)、ブランド元と製造元が異なる場合の委託生産契約、海外の現地における販売証明、成分説明書と商品ラベル、第三者検査機関による品質検査報告を求めています。販売証明については「海外BDが実地で確認する」と明記されており、書類だけで完結しません。燕窩滋補品でも、原材料の原産地証明と直近1年以内の第三者検査報告が必要です。
化粧品では、単独ブランドで出す限り追加の業種資質は課されていませんが、専営店には条件が付きます。規則は、美妆の経営大類で専営店として出店する場合、3ブランド以上を扱うこと、商標権者を起点とする三級以内の授権または仕入証憑を出すこと、そして出店主体の会社が設立から1年以上経過していることを求めています。出店のために新設した会社では、この条件を満たせません。なお美容護膚・美体・精油の一級類目では、足部護理、身体護理(新)、局部護理、身体清潔、胸部護理(新)、男士身体護理の各二級類目が開放されていない点にも注意が必要です。
医療機器・医薬は水準が大きく上がります。医療機器では経営範囲に応じた医療器械経営許可証等に加えて、保険金額500万人民元の製品品質責任保険が必要です。コンタクトレンズ・ケア液、およびOTC薬品・国際医薬では1000万人民元に上がり、コンタクトレンズではさらに、ブランド発祥地の企業登記書類・製造許可・販売許可、商品ごとの現地医療機器登録証やFDA登録・EUのCE認証、現地の代表的な販路証明(実店舗と棚の写真、または販売サイトのスクリーンショットとURL)まで求められます。
申請前に潰しておきたい、止まりやすい5つの論点
規則の記述から読み取れる、申請が止まりやすい論点を挙げます。
1. 書類が揃えば通る、とは書かれていない。《天猫国际招商标准》は「天猫国際は実際の状況(ブランドの需要、会社の経営状況、サービス水準などを含むがこれに限らない)に応じて入駐を許可するかどうかを決定でき、同時に申請および以後の経営段階で他の資質の提供を求めることができる」としています。審査には裁量があり、基準も不定期に更新されます。書類一式を「最終形」と考えず、追加要求が来る前提でスケジュールを組むほうが実態に合います。
2. 第三者から受け取った書類の真偽は、出店側の責任になる。規則は、商標登録証や授権書が第三者から提供されたものである場合、事前に文書の真実性と有効性を自ら確認することを求めています。そのうえで、資質や情報に虚偽があると判明した場合は「非誠信客户名单」に登録し、以後協業しないと明記しています。代理店から回ってきた授権書をそのまま提出する運用は、リスクが出店側に残ります。
3. 退店・清退の履歴は残る。重大な違反や資質の偽造で清退された場合、永久に入駐が制限されます。しかもこの制限は、経営主体を変更して同じ店舗を再開することや、清退された主体が新店を申請することにも及びます(国内発送に関する事案は除く)。加えて、1自然年のうちに自主退店を2回行った場合、2回目の退店日から6か月間は、同一主体でも主体を変更しても元の店舗を再開できません。テスト的に出して合わなければ畳む、という進め方には副作用があります。
4. 運営体制の届け出義務がある。規則は、店舗運営の主体および関連情報(運営代行会社や実際の店舗運営主体の身元・住所・連絡先・資質許可を含む)を事実に即して提供するよう求め、これらを変更する場合は15日前に書面で天猫国際に通知するとしています。運営代行の切り替えを検討する際は、この通知期間を織り込む必要があります。
5. 「揃えたのに整合していない」書類は通らない。会社の登記名、商標登録証の権利者名、授権書の宛先、そして中国側の受託企業との協議書に記載された当事者名。これらが1つでもずれていると、鎖として成立しません。特に日本法人と香港法人を使い分けている場合や、社名の英語表記が書類ごとに揺れている場合に起きがちです。集める前に、どの名義で通すのかを決めておくことが結果的に早道になります。
審査全体の潮流については、出店審査が厳しくなった背景を扱った記事で、当局の動きとあわせて整理しています。規制の全体像は中国EC法規制の解説を、天猫国際そのものの位置づけは天猫国際とはをあわせてご覧ください。
よくある質問
日本の会社のままで天猫国際に出店できますか?
できます。《天猫国际招商标准》が求めているのは「中国大陸以外の実体会社」であり、日本法人はこれに該当します。香港法人などを新たに設立する必要はありません。ただし、どの法人名義で出すかによって、登記書類・商標の権利者・授権書の宛先をすべて揃える必要があるため、申請前に決めておいてください。
中国で商標登録をしていなくても申請できますか?
できます。天猫国際の出店で求められるのは海外(日本など中国大陸以外)で登録された商標であり、日本の商標登録証で申請できます。中国での商標登録は出店の要件ではありませんが、模倣品や第三者による先取り出願への備えとして、取得しておくことが望ましい位置づけです。
食品や健康食品を売るのに、中国国内の会社が必要なのですか?
出店主体は海外法人のままで問題ありませんが、2026年5月27日施行の《天猫国际商家资质标准》により、食品・母婴・保健食品などの類目では、中国国内法人の営業執照・食品経営許可証・法定代表者の身分証明書と、越境EC小売輸入食品の委託経営協議の提出が必要になりました。自社で中国法人を持つ必要はなく、要件を満たす国内の受託企業と協議を結ぶ形が一般的です。
出店代行会社に頼めば審査は通りやすくなりますか?
《天猫国际招商标准》には「天猫国際は現時点でいかなる機関にも代理招商サービスを授権していない」と明記されており、特別な出店枠を持つ事業者は規則上存在しません。支援会社に依頼する意味は、書類の整合性を設計し、追加要求に対応し、出店後の運営を回すところにあります。「枠がある」という説明を受けた場合は、根拠を確認したほうがよいでしょう。
出店にかかる費用はどれくらいですか?
保証金、年費(一級類目を基準に3万元または6万元の2段階)、売上に対する料率のソフトウェアサービス費という構成です。カテゴリと店舗タイプによって金額が変わるため、天猫国際の出店費用を扱った記事に公式規則ベースの内訳をまとめています。
まとめ — 書類は「揃える」より「整合させる」
天猫国際の出店手続きは、必要書類の一覧だけを見ると、それほど膨大ではありません。開店企業資質は3点、ブランド資質は商標登録証と授権書が中心で、そこに類目ごとの追加資質が乗る構造です。実際に時間がかかるのは、書類を集める作業そのものではなく、法人名義・商標の権利者・授権の鎖・中国側の受託企業を1本の線として整合させる作業のほうです。
そして2026年5月の改定で、食品・母婴・健康食品については中国側の体制まで出店時点で問われるようになりました。これは越境ECを「まず軽く試す」入口として使ってきた進め方に対する、実務上の変更です。逆に言えば、海外で実際に開発・製造・販売してきたメーカーにとっては、証明できるものが増えるほど有利になる方向の変化でもあります。
なお、ここに挙げた要件は天猫国際が随時改定します。規則自体にも「不定期に入駐および経営の基準を更新する」と明記されているため、実際に申請へ進む段階では、必ず最新の規則原文を確認してください。