【2026年】中国618商戦の結果とトレンド — 「最長・静か・AIネイティブ」な618
2026年の中国「618」商戦が、6月中旬に収束しました。結果を一言でいえば、「数字は微増、しかし熱量は静か」な618でした。史上最長クラスの会期、補助金の一巡、そしてAIの全面導入が重なり、近年の構造変化がはっきり表れた回となっています。本記事では、第三者調査と各社発表をもとに、2026年618の結果と、ここ数年のトレンドを整理します。なお「618とは何か」という基礎は中国「618」商戦とは?で解説しています。
本記事の総額系の数字は、近年プラットフォームが総流通額(GMV)を公表しないため、第三者調査会社星図データ(Syntun)の全網推計を用いています。各プラットフォームの「速報(中国語:战报 zhànbào)」は自己申告である点も区別して記載します。
目次
2026年618の結果サマリー
星図データ(Syntun)の集計によると、2026年618(5月13日〜6月18日)の全網の流通総額(GMV)は約9,340億元(およそ1,380億ドル)、前年比+4.0%とされています。一見プラスですが、内訳を見ると様相が変わります。
- 総合EC(综合电商 zōnghé diànshāng/天猫・京東・抖音・拼多多など):約8,636億元 — 同じSyntunの系列で見ると2025年(約8,556億元)からほぼ横ばい。
- 即時小売(即时零售 jíshí língshòu/30分配送など):約628億元 — 今年大きく伸びた領域。
- コミュニティ共同購入:約76億元。
つまりSyntunの推計で見るかぎり、+4%の伸びの多くは新しく加わった「即時小売」と「共同購入」によるもので、本体のECはほぼ横ばい、という構図です。ロイター系の報道も「消費者の慎重姿勢が続き、EC売上はほぼ横ばい」と伝えています。背景として、中国の2026年5月の小売売上高は前年比−0.6%(2022年12月以来の減少)、消費者物価(CPI)も+1.2%にとどまり、消費そのものが力強さを欠いていることがあります。
近年のGMV推移 — 補助金次第で上下する不安定な伸び
618の規模は、ここ数年で大きく振れています。星図データ系の推計で並べると、2024年に史上初の前年割れ(−7%)を記録し、2025年は政府の買い替え補助金で+15%に反発、そして2026年は+4%へと再び減速しました。
この振れ幅が示すのは、近年の618の増減が、消費の実力よりも政府の補助金政策に強く左右される伸びになりつつあるということです。2025年の+15%は国家補助金(買い替え促進策)が家電を押し上げた効果が大きく、その効果が一巡した2026年は反動的に減速しました。
プラットフォーム別 — どこも「総額」は出さない
2026年も、主要プラットフォームは総流通額(GMV)を公表しませんでした。これは2022〜2023年ごろから定着した傾向で、各社は「売上が倍増したブランド数」「注文の成長率」といった部分的な指標だけを発表します。星図データによる2026年の順位は、1位 天猫、2位 京東、3位 抖音とされています。
| プラットフォーム | 2026年に公表した主な内容(=自己申告の速報) | 総GMV |
|---|---|---|
| 天猫(アリババ) | 「規模より利益」へ軸足を移したと説明。成交が倍増したブランドが多数(自己申告)。Qwenモデルを用いた「万象エンジン」で商品マッチングを強化 | 非公表 |
| 京東(JD) | 注文ユーザー数が過去最高と説明(具体的な注文件数・金額は非開示)。AIアシスタント「京小通」を活用 | 非公表 |
| 抖音(Douyin) | 100億元超の消費クーポン投入。AIマーケ基盤を強化。順位は3位(星図データ) | 非公表 |
| 拼多多(PDD)・小紅書(RED)等 | 独自の618速報は限定的。RED等は当局の行政指導対象にも | 非公表 |
「売上が何倍になったブランドが何社」という発表は景気のよい印象を与えますが、母数(前年の絶対額)が示されないため、実際の規模は外部からは星図データの推計に頼るしかないのが現状です。数字の受け取り方には注意が必要です。ライブコマースの比重についてはライブコマース戦略、抖音の活用は抖音(DouYin)EC活用法もご覧ください。
2026年の618、何が変わったのか
2026年の618は、これまでと比べて4つの大きな変化がありました。いずれも単年の話ではなく、今後の中国EC全体の方向性を示すものです。
1. 予約販売(予售/yùshòu・ユーショウ)の廃止 — 「買い物しながら計算する」時代の終わり
主要各社が、複雑な「前金+残金」の予約販売や、段階的な値引き・セット購入条件を撤廃しました。代わりに「公式の直接値下げ」「単品の即時割引」へと統一され、消費者は表示価格をそのまま信用して買えるようになりました。クーポンの掛け合わせを計算する手間が減った一方、ブランド側の価格設計はシンプルさが求められます。
2. 「最初のAIネイティブ618」
商品マッチング、価格比較、接客、物流のあらゆる場面にAIが導入されました。アリババの「万象エンジン(Qwen)」、京東の「京小通」、各社のAI比較アシスタントや「数字人(shùzìrén/AIアバター)」によるライブ配信などです。ただし業界レポートは「AIはまだ618を掌握してはいないが、小売のロジックを書き換えつつある」と慎重に評価しています。露出がAIの推薦に左右されるほど、商品データやレビューの整備が成果に効きやすくなると考えられます。
3. 国家補助金(国補/guóbǔ)の効果が一巡
2025年に成長を牽引した「以旧换新(yǐjiùhuànxīn/下取り・買い替え促進)」の補助金は2026年も継続し、政府は超長期国債で62.5億元を前倒し投入しました(スマホ等は15%補助・上限500元/台)。しかし家電の爆発的な伸びは一段落し、需要は家事代行などのサービス消費へと移りました。補助金頼みの成長の限界が見えた回でもあります。
4. 値下げ競争への規制介入
会期中、北京市場監督管理局が天猫・京東・拼多多・抖音・小紅書の5社を行政指導しました。「百億補貼(百亿补贴 bǎiyì bǔtiē=100億元規模の補助)」といった誤解を招く表現や不透明なルール、行き過ぎた値下げ競争(内卷/nèijuǎn・ネイジュアン=消耗的な過当競争)を是正し、「補助金と価格ではなく、革新とサービスで競うように」と求めたものです。安売り一辺倒のモデルそのものが、当局から見直しを迫られています。
越境EC・日本ブランドにとっての示唆
静かな618に見えても、越境EC・輸入ブランドの動きはむしろ活発でした。天猫国際(Tmall Global)では、618の前に29か国・600超の海外新ブランドが中国で初出店したと報じられています(米・韓・日・仏・豪が中心)。ペットや服飾の出店が倍増し、母婴・美容も二桁成長とされます。輸入品への需要そのものは底堅いといえます。
日本ブランドが押さえるべき実務上のポイントは、次の3点に集約されます。
- 価格設計はシンプルに:予約販売が廃止され、直接値下げが基本になった。複雑なクーポン設計より、分かりやすい価格提示が効く。
- 商品データとレビューを整える:AI推薦・AI接客の比重が増したぶん、正確な商品情報・良質なレビューが露出に直結しやすい。
- 「安さ」より「価値」で選ばれる準備:当局も市場も値下げ競争から距離を置き始めた。ブランドの世界観・品質・リピートで戦う設計が、中長期では有利になる。
プロモーション全体の設計は中国EC プロモーション戦略、出店の入り口となる天猫国際(Tmall Global)もあわせてご覧ください。
まとめ
2026年の618は、史上最長クラスの会期で、これまでより静かな、そして「最初のAIネイティブ」とも呼ばれた回でした。総額は+4%と微増したものの、その伸びは即時小売が中心で、EC本体はほぼ横ばい。補助金の一巡、予約販売の廃止、AIの全面導入、そして値下げ競争への規制介入と、中国EC全体が「規模の祭り」から「価値とサービスの競争」へと舵を切りつつあることがうかがえます。
618の仕組みやダブル11との違いをおさらいしたい方は中国「618」商戦とは?を、規制面の最新動向として、2026年6月に天猫国際で打ち出されたエクソソーム(外泌体)成分の販売禁止もご参照ください。中国ECは、商戦のたびに「売り方」と「ルール」の両方が動いています。