天猫国際がエクソソーム(外泌体)を販売禁止に — なぜ中国の規制はここまで厳しいのか
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2026年6月、天猫国際(Tmall Global)が、「エクソソーム(外泌体/wàimìtǐ・ワイミーティー)」成分を含む製品の出品(発布)を禁止する規範改定を公示しました。エクソソームは近年、「再生美容」「幹細胞コスメ」の文脈で注目を集めてきた成分です。なぜ中国はこれをここまで厳しく扱うのか——本記事では、規則の中身を原文で確認したうえで、その背景にある「化粧品でも医薬品でも合法的に売れない」という中国特有の規制構造を整理します。中国向けにスキンケア・美容製品を扱う事業者は、配合・訴求の両面で確認が必要です。
何が決まったのか — 規則の原文と要点
天猫国際は2026年6月22日、《天猫国際医療機器業界 商品発布規範》の改定を公示し、2026年6月29日から正式に施行するとしました。新たに加わったのは、「高リスクの生物由来物質」であるエクソソーム成分を含む製品の発布(出品)禁止です。
原文(中国語)で新たに加えられた要点は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公示日 | 2026年6月22日 |
| 施行日 | 2026年6月29日 |
| 追加された禁止(3.3) | 高リスクの生物由来物質である「外泌体(エクソソーム)」成分を含む製品の発布を禁止(化粧品・医療類などを含む) |
| 違反時の措置(4) | 規範に違反した場合、プラットフォームは商品の取り下げ(下架/xiàjià)・削除を行う権利を持ち、悪質な場合は店舗を監督管理(监管/jiānguǎn)の対象とする |
ポイントは、これが商品ページの表現規制にとどまらず、「外泌体」を含むと見なされる製品そのものの出品を塞ぐ措置だという点です。化粧品か医療類かを問わず対象になります。
そもそもエクソソームとは何か
エクソソーム(外泌体)は、細胞が分泌する直径数十〜百数十ナノメートルの「細胞外小胞」の一種です。タンパク質・脂質・核酸(mRNA、miRNAなど)を内包し、細胞どうしの情報伝達を担うとされます。美容で使われるものの多くは「幹細胞培養上清液」由来で、幹細胞が培養の過程で分泌したものを濃縮・精製したものです。
皮膚の自己修復を促すとうたう抗加齢素材として人気が出た一方、規制当局は、その想定される作用(細胞の再生促進・創傷治癒の促進など)が「化粧品の定義を超え、むしろ医薬品的である」点、また成長因子などの生物活性物質を含む点を問題視してきました。エクソソームの効果そのものをここで肯定も否定もしませんが、規制側の論理は「効果があるなら、それは化粧品の範囲を超える」という立て付けである、と理解するのが正確です。
なぜ中国はここまで厳しいのか — 化粧品でも医薬品でも壁がある二重構造
中国でエクソソームの扱いが厳しいのは、化粧品の枠でも、医薬品・医療機器の枠でも、承認や原料収載の裏づけがないまま販売するのはリスクが高いという二重構造になっているためです。
化粧品としては「使えない」
中国の化粧品規制では、ヒト由来・幹細胞由来の物質は原則として禁用原料に位置づけられています。「化粧品安全技術規範」は人の細胞・組織・ヒト由来製品を禁用組分としており、また2021年施行の「化粧品監督管理条例(CSAR)」は許可を経ていない新原料の使用を禁じています。エクソソームは、使用できる化粧品原料の目録(IECIC)に収載されておらず、新原料としての承認実績もないとされます。つまり、本当に配合していれば「未許可の新原料使用」、配合していなければ「虚偽宣伝」に当たるという、出口のない状態に置かれています。中国当局は、EU・日本・韓国も人由来成分には慎重だとしたうえで、「化粧品で『外泌体』の名称を使うこと、関連する効能を宣伝すること自体が不適合である」との見解を示してきたとされます。
医薬品・医療機器としては「未承認」
では医薬品・医療機器の枠ならどうかというと、こちらはこちらで厳格です。2025年、中国の規制当局はエクソソーム(細胞外小胞)を、明確な治療機能を持つ場合「先進治療医薬品(ATMP)」の監督体系に正式に組み入れ、細胞治療・遺伝子治療薬と同等の厳しい管理対象として位置づけたとされます。さらに同年末には、エクソソームを含む製品が「薬械組合製品(医薬品と医療機器の組み合わせ製品)」として初めて区分された事例も報じられました。現時点で、中国で承認・上市されたエクソソーム医薬品はないとされています。臨床試験やGMP遵守を求められる厳格な枠に移ったことで、化粧品と医療機器のグレーゾーンは塞がれた、という評価です。
2026年3月、国営テレビが「乱象」を全国に暴露
規制強化を一気に後押ししたのが、2026年3月に放送された中国国営中央テレビの消費者保護番組「315晚会(3.15晚会/サンイーウーワンフイ=毎年3月15日「消費者の日」の暴露番組)」です。エクソソームをうたう「抗加齢の万能薬」的な製品をめぐり、無許可の注射や実体のない製品、健康被害の事例が全国に向けて暴露されました。これを受けて当局・業界の引き締めが加速し、今回の天猫国際のプラットフォーム規制も、この流れをEC出品段階のリスク遮断に落とし込んだものと読めます。
世界でも揺れるエクソソーム規制
エクソソームの扱いに苦慮しているのは中国だけではありません。共通する論点は、「品質・安全性・有効性の評価方法が世界的にまだ確立しておらず、規制が追いついていない」ことです。各国・地域の対応は、許容の度合いだけが異なります。
| 国・地域 | 化粧品でのエクソソームの扱い(概況) |
|---|---|
| 中国(大陸) | 化粧品では使えず、医薬品・医療機器としても未承認。今回、天猫国際が出品を禁止 |
| 米国(FDA) | 治療をうたう製品を「未承認の新薬・無認可の生物製品」と位置づけ、企業への警告書を相次いで発出 |
| 韓国(MFDS) | 安全基準を満たせば化粧品成分として使用可能(条件付き) |
| EU | 化粧品規則でヒト由来物質を禁止 |
| 台湾 | 個別審査(ドナーの病原体検査等)を前提に条件付きで許容 |
| 日本 | 「幹細胞培養上清液」などとして条件付きで流通(薬機法上の正確な位置づけは要確認) |
※ 上表および本記事の規制動向は、各国当局の発表・法規データベース・専門メディアの報道にもとづく概況です。実際の可否は製品・原料・時期により異なるため、最新の一次情報での確認が必要です。
このように、世界の主要市場はおおむね「化粧品で効能をうたうのは医薬品的だ」という立場で一致しており、中国はその中でも特に厳格な側に位置します。
越境EC・日本ブランドへの影響
これまで、中国向けの越境EC(保税区モデル・直送モデル)では、輸入される化粧品は「個人が自分用に買う輸入品」として扱われ、一般貿易で必要なNMPAの登録・届出が不要でした。このため、エクソソーム配合をうたう日本・韓国などの製品が、届出を経ずに越境ECルートで中国の消費者に届く、というグレーゾーンが存在していました。
今回の天猫国際の措置は、その「越境ECなら出せる」グレーゾーンを、プラットフォーム自身の出品規制で塞いだことを意味します。日本ブランドにとっての実務上の影響は、次のとおりです。
- エクソソーム(外泌体/exosome)を配合・訴求するスキンケア・美容製品は、天猫国際で出品・販売できなくなる。施行は2026年6月29日。
- 中国当局は「外泌体」という名称の使用や関連効能の宣伝そのものを不適合としているため、配合の有無にかかわらず、訴求文言の使用がリスクになる。
- 日本国内で「幹細胞培養上清液」などの表現で流通している製品も、中国向けは表現・配合の両面で見直しが必要。
- 一般貿易で出そうにも、化粧品としては禁用原料・新原料未登録、医薬品・医療機器としても未承認とされ、確認できる承認・収載がない限り、販売は難しい。
越境ECは「届出不要だから何でも売れる」わけではなく、規制リスクが通関からプラットフォームの出品ルールと訴求表現の側に移っている、という理解が重要です。中国向けの規制全般は中国EC 法規制・コンプライアンス、食品・健康食品分野の最近の規制強化は天猫国際の越境EC食品規制(受託企業の届出)もあわせてご覧ください。
まとめ
天猫国際は2026年6月29日施行で、エクソソーム(外泌体)成分を含む製品の出品を禁止しました。背景にあるのは、中国でエクソソームが「化粧品としては禁用原料・新原料未登録で使えず、医薬品・医療機器としても未承認」という、化粧品でも医薬品・医療機器でも販売の壁が高い二重構造です。2026年3月の国営テレビによる乱象の暴露が、引き締めをさらに加速させました。
中国ECは、大型商戦のたびに「売り方」だけでなく「ルール」も動きます。直近の市場動向は【2026年】中国618商戦の結果とトレンドでも整理しています。中国向けの製品展開では、成分と訴求表現を最新の規制に照らして点検し続けることが、何よりのリスク管理になります。